スチュバイカップ2024 最新ギアレポート

スチュバイカップ2024
最新パラグライダーギアレポート

オーストリアで毎年3月に開催されるスチュバイカップ。ヨーロッパ最大規模のテスティバル(試乗会)で、新しいシーズンが始まるタイミングのスチュバイカップに合わせて新製品をリリースするメーカーも少なくない。

今回は、Cross Country誌によるレポート「STUBAI CUP: ALL THE NEW GEAR FOR 2024」の日本語版をお届けしよう。

なお、記事内にリンクされている動画の言語は英語となっている。日本語字幕をつけて見るためには、字幕をONにし、さらに歯車マークから自動翻訳を日本語に設定してください。

Report: Cross Country
Link: STUBAI CUP: ALL THE NEW GEAR FOR 2024

目次

ADVANCE AirDesign APCO
BGD DUDEK GIN GLIDERS
KORTEL MAC PARA NAVITER
NEO NIVIUK NOVA
OZONE SKYMAN SKYWALK
SWING SUPAIR UP
U-TURN WOODY VALLEY

スチュバイカップ2024中の、テイクオフの様子。Photo: Erwin Voogt

今年のスチュバイカップは天候に恵まれず、来場者も例年より少なかったが、それでも参加したパイロットたちはいくつかのニューモデルに何回か試乗でき、そして約30社ものメーカーの展示スタンドをじっくり時間をかけてチェックしていた。

初日の金曜朝は雨と強いフェーンに見舞われる予報だったが、蓋を開けてみれば雨も風もなくパラグライダーが飛ぶのに問題なく、さらに多くのパイロットが予報を見て来場を見合わせたため行列もほとんどなく、試乗するのには驚くほど好条件となり、中には4回テストフライトをしたパイロットもいた。やがて天候は崩れ始め、湿気により明らかな失速に入るケースも見受けられるようになり、フライトは終了となった。

土曜日の朝は青空が広がり、弱いサーマルも発生して滞空していられる好条件となった。しかし午後1時にはフェーンが到達し、強風のためテイクオフクローズ。来場者たちはグランドハンドリングで新しいグライダーの操作性をチェックしていた。

日曜朝はテイクオフでは時速20kmのフォローが吹いていてフライトは不可能。スチュバイカップ会場から程近いイン渓谷では時速100kmの風が吹いていた。多くのメーカーは早めにブースを畳み引き上げていたが、ウッディーバレーはニューモデルを含む豊富なハーネスラインナップを遅くまで展示しており、残った参加者たちは思い思いにハーネスに座り感触を確かめていた。
また期間中にはエックスアルプスの人気アスリート、エリ・エッガー、アーロン・デュロガティ、ポール・グシュバウアーの3人による講演会も開催された。

天候に恵まれたとは言えないものの、クロスカントリー誌はいくつかのニューモデルを試乗することができ、また多くのメーカーに新製品情報についての取材を行った。その概要をお伝えしよう。

ADVANCE

アドバンスのシータULS。Photo: Advance

スチュバイカップでのリリースが予告されていた待望のEN-Bモデル「シータULS(Theta ULS – Ultra Lightweight Structure)」が土曜日に登場した。アドバンスによると、シータULSは冒険フライトのために開発された超軽量ミドルBクラス機。機体重量は3.1kg~で、ハイク&フライから、難易度の高いビバークフライトを楽しむパイロットを対象としている。アドバンスのグライダーラインナップの中ではイプシロンDLSとイオタDLSの中間に位置し、シータULSによってアドバンスの超軽量モデルのラインナップが完成したとのこと。最初のデリバリーは4月下旬予定だ。

AIRDESIGN

エアデザインのライズ5。Photo: AirDesign

エアデザインがほぼ同時にリリースした3機の新モデル(ライズ5、ヒーロー2、ソアー2)すべての試乗機が用意されていた。
ハイエンドBモデルの「ライズ5(Rise 5)」にはウイングレットが片側2つずつ付いている。「ヴォルト5(Volt 5)」は、最初の2ライナーC第2世代で、新しいEN-D機「ヒーロー2(Hero 2)」から導入されたテクノロジーが組み込まれている。
またライズ5の軽量バージョンであるソアー2も準備中で、今春下旬にリリース予定とのこと。

APCO

アプコのパラモーター用グライダーF5は 、「モヒカン」と命名されたウイングレットを1つ、翼中央に備えている。Photo: Erwin Voogt

新しいパラモーター用モデル「F5」が発表となり、ランディング場での試乗機のグラハンは大きな注目を集めていた。
グライダー中央には「モヒカン」と命名された1本のフィンが搭載されており、耳(ウイングレット)付きグライダーが一気に増えた今年の新モデルの中にあっても特徴的だ。
山飛び用グライダーでは、アプコは昨年発売されたハイBのネストラライトを推していた。

BGD

ブルース・ゴールドスミスは、新しいEN-Aモデルの「マジック2(Magic 2)」の発売を発表した。ブルースによると、1機目のグライダーであるマジック2は、パイロットが基礎的な技術を習得し、さらにサーマルソアリング、そしてクロスカントリーフライトまで進んでいけるようにデザインされているという。Lサイズを試乗したところ、ライズアップからテイクオフまでは非常に簡単で、浮きの良さも感じることができた。現在すでにオーダーの受付が始まっている。

DUDEK

デューデックのパラカイト「タッチ」。Photo: Erwin Voogt

デューデックは今回のスチュバイカップに正式に正式に出展してはいなかったが、18歳の若きチームパイロット、セウェリン・ソブチャクがパラカイト「ザ・タッチ(The Touch)」のプロトタイプでフライトしていた。この春下旬に発売となる予定だ。

GIN GLIDERS

ジングライダーズの競技用ハーネス、ジェニーレース5。Photo: Jerome Maupoint

ジンは湿気や泥による汚れとダメージを考慮し、ジェニーレース5ハーネスの展示と試乗貸出に慎重になっていた。2024シーズンに向けて間もなく発売されるグライダーとしては、人気のハイク&フライモデルであるEN-A機「イエティ6(Yeti 6)」や、軽量EN-Cモデルの「カミノ2(Camino 2)」がある。

KORTEL

コルテルのマチュー・ラペルシュは、「クリフ3(Kliff Ⅲ)」をお披露目した。クリフ3は超軽量山岳フライト用ハーネスのクリフ2をさらにアップデートしたもので、アルピニストや山岳フライトを行うパイロット向けにデザインされている。
他に展示されていたのは「クイック3(Kuik Ⅲ)」。クイック3はポット部分が取り外し可能で、ポットハーネスとしても足出しハーネスとしても使用できるリバーシブル式ハーネスだ。
また、新しい「コンパクトバッグ(Kompact bag)」システムも展示されていた。わずか400gで、非常にコンパクトに折りたたむことができ、パッキングバッグとリュックサックとしての2つの機能を果たしてくれる。

MACPARA

MACパラのヴァーヴ。Photo: Bastienne Wentzel

多くのパイロットが、ウイングレットを備えたMACパラの新しい2ライナーCモデル「ヴァーヴ(Verve)」の試乗を希望し、列をなしていた。エラン3(EN-C)とマガス(EN-D)をベースに開発されたこのグライダーは、アスペクト比6.6、セル数67で、5サイズすべての認証を取得しオーダー可能となっている。

NAVITER

ナビターの展示ブースの目玉は、2週間前にリリースされたばかりのフルスペックフライト計器「オムニ(Omni)」。Oudie Nよりも小さく軽量で、そして価格も抑えられており、最高スペックのフライト計器と同等の機能すべてが、よりコンパクトなパッケージに詰め込まれている。Oudie Nとの違いは、画面サイズが小さいことと、バッテリー容量が小さいことだ。

NEO

NEOがリリースしたのは「ストリングパック2.0(StringPack 2.0)」。初代ストリングパックのリリースから7年、満を持してのアップデートとなった。
ストリングパックは超軽量ハーネスであり、かつバックパックとしての機能も果たす、コンバーチブル(可変)ハーネスだ。リバーシブルではなく、バックパックとして使用するハイク時とハーネスとして使用するフライト時に同一のショルダーストラップを使用することで、重量と質量を大幅に節約している。ハーネスのバックプロテクションやレスキューパラシュートまでを含めたフライト機材一式を一気に軽量化するための解決策を求めている一般パイロットのためにデザインされている。

NIVIUK

ニビュークは多くの試乗機を用意しており、その中には今回のスチュバイカップに合わせてリリースされたEN-Aクラスのアキュラシー専用機「ターゲット(Target)」も。しかし、もっとも来場者の関心を引いたのは、新しいプロテクション素材「オリカミ(Orikami)」だった。ハイエンドハーネスのためにニビュークが独自に開発したオリカミは、薄型のハニカム(蜂の巣)構造のバックプロテクション素材だ。現在ドリフター2に搭載されており、ニビュークによると特許取得予定とのこと。

NOVA

ノバに移籍したアーロン・デュロガティ。Photo: Jack Peake

ノバからのビッグニュースは、過去8年間アドバンスで活動していたアーロン・デュロガティが移籍し、ノバチームに加わったことだ。アーロンはRed Bullエックスアルプスのベテランアスリートで、PWCスーパーファイナルで2度の優勝経験を持つ、イタリアの超人気パイロット。ノバはすでに、アクロのスターパイロットであるテオ・デ・ブリックとイタリアの若手スターであるニコラ・ドニーニをチームに擁する。ここにアーロンが加わり、ノバチームのスター性はさらに輝きを増すこととなった。アーロンがパラグライダーを始めた当時、父親がノバのディーラーをしていたことから、アーロンは今回の移籍を「原点回帰」と称している。

OZONE

オゾンは2機の公式リリースと、1件の非公式発表を行った。
公式リリースされたのは、ウイングレット付きのEN-Aモデル「アルタ(Alta)」と、超軽量山岳フライト用モデル「ウルトラライト5(Ultralite 5)」で、両機ともに試乗機が用意されていた。アルタはまったくの初心者を対象としたグライダーで、基本的なスキルの習得から初めてのクロカンまでをカバーできるようデザインされている。
非公式に発表されたのは、今年下旬にフォトンの軽量バージョンが登場するというニュース。「非常に多くのパイロットからの要望を受け、その開発に取り組んでいます」とオゾンのJC・スキエラ。以下の動画でJCはまた、間もなくリリースされるタンデム機「マグナム4(Magnum 4)」と、サブマリンハーネスのアップデートについても語っている。黄色を含む(※)、さまざまなカラーバージョンが発売となる予定とのことだ。

※編注:ビートルズの曲「イエローサブマリン」にちなみ、「サブマリンは黄色であるべきだ」という要望が多く届いていたようだ。

SKYMAN

元祖”空の人”、マーカス・グリュンドハンマー。Photo: Ed Ewing

スカイマンのCEOマーカスは、自ら新しくリリースしたばかりの「サーエドモンド3(Sir Edmund 3)」のお披露目フライトを行っていた。人気のEN-B軽量シングルスキンモデル、サーエドモンドの最新バージョンだ。

SKYWALK

スカイウォークのマサラ4。Photo: Skywalk

スカイウォークはスチュバイカップの3日前にEN-Aモデル「マサラ4(Masala 4)」をリリースしており、試乗機も用意されていた。スカイウォークグループのトップであるアルネ・ウェリン氏は、マサラ4の仕上がりに本当に満足していると話す。「完璧な初心者向けのグライダーであり、確実な技術の習得からクロカンまで導いてくれるよう設計されています」とのこと。
また、4月までのリリースが予定されているEN-Bモデル「アラック2(Arak 2)」の試乗機も用意されていた。ミドルBモデルのアラック2は丈夫な素材で構成された軽い翼(ただし軽量モデルではない)。「非常に優れたパフォーマンスを持ち合わせた、とても楽しいグライダーで、空気の動きに対する第6感を授けてくれます」とアルネ氏。55~135kgまでをカバーする6サイズが用意される。
もう1つのニュースは、2ライナーDクラスモデルのポイズンの最新世代の開発が、ついに最終段階に入ったこと。アルネ氏は、コンペシーズンが本格的に始まる5月には、おそらくリリース可能となるだろうと語った。

SWING

今年のスチュバイカップにおけるスイング最大の目玉は、リリースされたばかりの「ステラRS(Stellar RS)」だった。2.5ライナーのハイエンドBモデルで、多くのパイロットが試乗を希望し、そのフライトを楽しんでいた。デザイナーのアレッシオ・カソーラによると、”例外的な”ハイエンドBモデルを目指して開発されたステラRSは、Bクラスの安全性を維持しながら、最大限のパフォーマンスを求めるXCパイロットを対象としたグライダーとして完成されたという。軽量で、「エックスアルプス的な冒険を求めるクロカンハンターにも最適」とのことだ。
他にも、EN-A/Bの「ミウラ2RS(Miura 2 RS)」と、タンデム機「ツイン3(Twin 3)」も。

SUPAIR

スープエアーは、来年リリースを目指して開発中のハイク&フライ競技用ハイパフォーマンス軽量サブマリンタイプハーネスのプロトタイプを展示していた。詳細は追って発表されるとのこと。

UP

UPのキボX。Photo: UP

「キボX(Kibo-X)」はUPの新しい2.5ライナーEN-Bモデル。2.5ライナー構造のハイエンドBモデルはこれまで何機かリリースされてきたが、キボXは初の2.5ライナーミドルBモデル。実測アスペクト比は5.6。UPによると、キボXは高いパッシブセーフティーと、きめ細かくチューニングされたハンドリングという楽しさの要素を両立させているとのこと。試乗を終えたパイロットの1人は「滑空比がとても良いと感じました」と話していた。
また、2.5ライナーの軽量ハイエンドBモデルの「カングリX(Kangri X)」も新しく発表された。

U-TURN

Uターンのプロキシ。Image: Screengrab

風が強まり通常のパラグライダーでのグラハンが難しくなったフィールドで、Uターンの新しいスピードウイング「プロキシ(Proxi)」がデビューを飾った。8~14mまでの5サイズが用意されている。
Uターンの山岳用モデルの定番エベレストもアップデートされ、「エベレスト++(Everest++)」としてデビュー。重量わずか2kgのハイク&フライ用モデルで、今回のアップデートではプラスチックの代わりにニチノールを使用するなど、定評のあるこのグライダーをさらに精巧に仕上げるべく最新の素材が用いられている。

WOODY VALLEY

アーロン・デュロガティとアンセルム・ラウが、ウッディーバレーの新しいレース用ハーネス「レース(Race)」について話してくれた。レースは、アーロンをはじめとするトップレベルのアスリートがアドベンチャーレースで使用する「レースプロ(Race Pro)」の一般向けバージョン。4サイズ構成で、重量は1.7kg~。レースは、サーマルモードではより柔軟に、滑空中はより高い安定性にと、ハーネスの安定性を調整することができる。動画では、アーロンがこの革新的な安定化システムについて解説している。

関連記事