不定期連載「死にかけた2人だから言えること」#2

タイトル写真:前島聡夫

2023年に落ちて九死に一生を得たものの、大怪我を負いパラグライダー休止中の前島さん。
2021年に普通なら死ぬ落ち方をしたものの生きていた、中の人の私。
この連載企画は、取材される側、取材する側ともにパラグライダーで一度死にかけて、それでもパラグライダーを愛してやまない2人でお届けしていきます。

第2回
日本人の気質とパラグライダーは相性が悪い?

語り手:前島聡夫 聞き手:佐藤友紀

―仲間の事故の知らせを聞くのは辛いですよね。

前島:それが、実は「この人ちょっと危ないなあ、そのうちやらかすんじゃないか」と思っていた人だったりすることも少なくないんですよね。

―と言うと「お前が言うか」となるのは重々わかっていますし、これから話す内容すべてが特大ブーメランになる自覚もあります。それを承知の上で読んでいただけたらなと思います。

前島:僕が怪我した時、お世話になっているイントラさんから「勢いがあるからいつかやるかもしれないと思っていた」と言われました。

―「勢い」ですか。前島さんは上達も早くて、コンペに出るようになってからも急激に伸びて、グライダーも上のクラスに乗り換えていましたよね。

前島:そうですね。ハイエンドBクラス機の次は、Dクラスの機体に乗り換えました。

―それはまた大きなステップアップでしたね。

前島:もちろんCクラスやDクラス数種類を試乗した上での選択でしたし、安全な範囲でいろんなマヌーバーもしてみて、自分のスキルで乗れると確認した上で乗っていました。実際、そのDクラスのグライダーに乗っている時は特に危ないと感じることはなかったんですが…。

―前島さんの場合、その大きなステップアップが間違いというか、事故の原因だったわけではないのかもしれません。ただ、急激に上達すること、その時に「もっと上手くなりたい」という上昇志向が強くなることで、見落としたり、目に入らなくなることが出てきてしまうのでしょうか。

前島:上手くなりたい、PWCレベルの大会に出て戦えるようになりたい、そのために必要なことを頑張る。そのことに疑問を感じたことはありませんでしたね。

―あ、その「頑張る」って、パラグライダーにおいては実はちょっと厄介だと思いませんか?

前島:というと?

―日本人にとって「頑張る」のは基本的に良いことで、何なら美徳でもありますよね。頑張ることで、周りからも認められたり褒められることが多い。でも「頑張る」と「無理をする」は違くて、無理をしちゃいけないと分かっているはずなのに、ついつい頑張りすぎてしまう。頑張りすぎて「無理をする」範囲に入っていても自覚できないというか。

前島:パラグライダーで頑張るとリスクが大きくなる場面が多いですよね。高度が低くなった時に頑張ってその場所で上げようとして結局上がらず余計低くなってエスケープできなくなるとか、荒れていてちょっと怖いけれど他の皆は飛んでるから自分も頑張って飛び続けるとか。

―日本のパイロットって他の国に比べて「どうしてそんなことに」ってなることが多いんです。

前島:そうなんですか?

―残念ながら有名です。パラグライダーだけでなく、登山の世界でも日本人は頑張りすぎて事故を起こすと有名だと聞いたことがあります。

前島:頑張るのが好きな国民性は、リスクのあるスポーツとは相性が悪いのかも。

―あとは、「頑張って」上のクラスに乗り換えるとか?

前島:それは「頑張る」方向がずれているパターンかもしれませんね。乗り換えてから頑張って飛ぶのではなくて、グラハンとかグライダーコントロールの練習を頑張ってスキルを上げてからなら、上のクラスに乗り換えてもリスクは小さいのでは。

―国民性に関して言えば「和を以て貴しと為す」の気質が、言うべきことを言いにくい、言わずにおいてしまう土壌になっているんじゃないかと思うんですよね。アウトランしたり、危ない場面で何とかなった人に対して「頑張ったね、無事で何より」と声をかけて、良かった良かったと良い雰囲気になって終わり。パラグライダーでは、それじゃダメなんですよね。

前島:平和な空気を維持するために、言わなくてはいけないことを言わないということですね。ありますね。この人大丈夫かな、危ないんじゃないかなと思っても、相手のプライドを傷つけるとか、気を悪くさせて煙たがられるのが面倒だとか、自分は言える立場じゃない(もっと近しい人がいる)とか。言わないでおく言い訳はいくらでも並べられます。でもそれは、本当の意味では相手のためにならない。ちょっと前に知り合いが怪我をしたと聞いた時、言わないでいてしまったのを悔やみました。結局自分も言わなかったじゃないかと。

―怪我した人のことを「危ないと思ってたんだよね」と後から言うけれど、そんなの何の助けにもならない。

前島:「いつかやるかもと思っていた」と言われた時、まさにそう思いました。先に言ってほしかったなあ、と。

―前回「君にこのグライダーに乗るスキルはない」と言われた話をしましたが、これを言ってくれたのはイギリス人の今の夫です。君のためだから言うんだ、と。日本にいる時から、私も周りから「いつかやるんじゃないか」と思われていたはず。でも、ここまで強く言われたことはありませんでした。いや、それっぽいことを言ってくれた人もいたんですが、日本人的なやんわりとした言い方で、鈍感でイケイケだった自分は受け止められていなかったんです。

前島:勢いがある状態だったんでしょうね。こうして聞いていると、ヤバい人だなと分かるんですけどね(笑)。

―勢いのある人、危ういオーラを発している人ほど、日本人的な空気を読んだ優しい言い方だと伝わらない一例かもしれません。あとは、これを読んで「あー、そういう人いるよね」と思っている人こそ、自分はどうかと振り返ってみてほしいとも思います。

前島:厳しいことを言われた時の受け取り方ですか。例えば、「そのグライダーはあなたにはオーバースペックだよ。1つ下のに乗り換えた方がいい」と言われた時、どれだけの人がすんなり受け入れられるんでしょうね。

関連リンク:Akio Maeshima Photography

 

 

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