【不定期連載】死にかけた2人だから言えること #1

タイトル写真:前島聡夫

本編に入る前に…
この連載が始まることになった経緯

フォトグラファーの前島聡夫さん。パラグライダー仲間から「まえしー」の愛称で親しまれている彼は、ワールドカップ出場を目標に経験を積みながら、順調に国内大会で成績を伸ばしていた。

「いた」、と過去形なのは、2023年8月のフライトでランディングアプローチ中に地上約30mで翼を大きく潰され、制御する間もなく地面に激突して大怪我を負い、現在は仕事を再開できるほどに回復したものの、パラグライダーは休止中だからだ。

フライト復帰にはもう少し時間がかかるとのことだが、そもそも今こうして生きていて、仕事に復帰し、後遺症も少々の痺れだけで済んだこと自体がすでに奇跡と言っても過言ではない。

前島さんは、落ちてからの状況と心の動き、自身事故の分析を赤裸々にnoteに綴っているので、詳しく知りたい方はこちら(https://note.com/akio_maeshima/m/m3dbf7d95ea1f)をご参照のこと。

そんな前島さんから、「自分の経験を、パラワールドWEBで役立ててもらえませんか?」と提案を受けた。

ちなみにパラワールドWEBの中の人をやっている私自身、3年前に1300mの高度でオートローテーションに入り、レスキューパラシュートを投げられないまま地面まで墜落するという、普通なら死んでいる落ち方をして生きていたという経験をしている。

そんなわけでこの連載企画は、取材される側、取材する側ともにパラグライダーで一度死にかけて、それでもパラグライダーを愛してやまない2人でお届けしていきます。

第1回
他の誰にも、私たちみたいになってほしくない!

語り手:前島聡夫 聞き手:佐藤友紀

―このたびはご提案をありがとうございます。それにしても、お互い生きていて良かったですよね。

前島:そうですね。でも、仕事に復帰できたとはいえまだ完全復帰とは言えない状態で、どうしようもなく辛くなることもありますし、自分が生き残った意味を探してもがいている途中なので、「良かった」と言い切っていいものかどうか…。

―なるほど…。確かに私自身も、自分が生き残った意味はわからないというか、考えても仕方ないので今できることをやるしかないというか。ただ、両親と夫に自分の葬式を出させずに済んだという一点に置いて「良かった」と思っています。

前島:先日事故現場に行ってきたんですが、自分が落ちた平坦なスペースの周りは思っていた以上に段差や角が沢山あり、ほんの30cmずれていたら後頭部をぶつけて即死か、重篤な脳障害を負っていたかもしれなくて。本当に「ここしかない」という場所に落ちていたから助かったのだと改めて思いました。

―ちなみに乗っていたグライダーはダヴィンチのCCCコンペ機のオペラでしたよね。

前島:はい。中古で買ったかなり古いエンツォ3から乗り換えて20時間くらい。ある程度仲良くなっていたけれど、親友と呼べるほどは分かり合えていないという頃でした。

―タラレバを言い始めたらキリがありませんが、もし違うグライダーに乗っていたら落ちていなかったかも? と思うことはありませんでしたか?

前島:事故映像を見ると、大きく潰れた次の瞬間のシューティングを止められていませんでした。同じ状況で違うグライダーだったとしても、あの高さで潰れた場合、結果は同じだったと思っています。

―なるほど。

前島:でも、ずっとお世話になっているインストラクターさんに、「オノラン(注:先のPWCスーパーファイナルでも優勝したオゾンのテストパイロット)だったら、そもそも潰していなかったかもね」と言われ、世界のトップのレベルはそこまで違うのかと衝撃を受けました。それまで、あの時と同じ状況になってどうにかできるパイロットはまずいないと思っていましたから…」

―ご自身のコントロールスキルには、ある程度の自信を持っていたのですね。

前島:落ちてしまった以上「自信がある」とは言いにくいのですが、ベーシックなアクロは練習していましたし、フルストールからのテールスライドも日常的に行っていました。グライダーをコントロールするスキルは、安全にフライトするために必要不可欠だと思うからです。でも、少なくとも僕が目にする範囲ではそういった練習をしている人はほとんどいませんでした。それどころか、「危ないことやってる」という目で見られることもよくありました。ちょっと大きめのローリングをしたら、「ウチではアクロ禁止だから」とエリア管理者の方に注意されたこともありました。

―ウイングオーバーでは、荷重が外に抜けていたり、外翼の押さえが足りていないと、潰れてオートローテーションに入るリスクは確かにあります。でもローリングすらダメと言われたら、コントロールスキルを身につける練習ができませんね。まさか、グライダーにぶら下がっていれば安全と思っているのでしょうか。

前島:以前タンデム検定の撮影をしたのですが、そこで見た現実はかなり衝撃でした。参加していた結構な割合の方が、まともにローリングができなかったんです。

―タンデム検定を受けるということは、エリアで「結構飛べる人」という立ち位置なはず。そんな人がローリングができないって、え、ヤバいですね。ということは、他のパイロットの方のコントロールスキルも推して知るべしということに…。

前島:そうなんですよ…。

―日本のパイロットのコントロールスキルって、もしかしなくても相当ヤバいんですよね。いや、自分も大概ひどかったんです。日本に住んでいた頃はテイクオフもまともにできないというか、対応できる風の範囲が狭くて、それって単純にスキルが低いということ。そのくせコンペ機に乗っていて、たまに大会でまずまずの結果が出たりするものだからそれでいいような気になっていて。

前島:ヤバいパターンじゃないですか。

―その通りです。そして、私ほど酷くなくても似たようなパイロットは周りにたくさんいました。あとは、一緒に飛んでいる仲間が上のクラスに乗り換えたから自分もそのクラスのグライダーにする、みたいな機体の選び方をしている人とか。そんな状況が今も変わっていないとしたら…

前島:いや、今も同じですよ。

―私は10数年前に「君にこのグライダーに乗るスキルはない」とズバっと言われて、悔しくて泣きながらグラハン特訓して、SIVも何回かやって、以前よりはまともになった気になっていましたが、それでも落ちました。大事な人たちを泣かせるまで自分の愚かさに気付けなかった。こんな思いを他の人にはしてほしくないんです。

前島:同感です。こんな辛い思いをするのは、もう僕たちだけで十分です。

―いろんなシガラミや、プライドや、経済的理由が邪魔をして、言うべきことが言いにくいことはあるんだと思います。でも、パラグライダーにおいて、安全より優先させるべきことはないはず。言いにくいことも、死にかけた私たちだから言えるかもしれません。次回から、さらに突っ込んで考えていきたいと思います。

関連リンク:Akio Maeshima Photography

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