ブルースのテクニック講座「アシメトリック・スパイラル」

ブルース・ゴールドスミスのテクニック講座

パラワールド誌の長期連載にして人気連載ページでもあったブルース・ゴールドスミス氏による「最新テクニック講座」。最近はあまり記事を執筆していないというブルースだが、今回パラワールドWEBに新しい記事を寄稿してくれた。

テーマは「アシメトリック・スパイラル」。SIVトレーニングを受けられる環境が限られている日本のパイロットにとって、スパイラルの習得における危険性を大幅に減らすことができるという意味でも、非常に有効なテクニックである。

日本のパイロットに記事を紹介できるのは光栄だと話してくれたブルース。今後も新しい記事が届き次第、皆さんにお届けしていく予定だ。

アシメトリック・スパイラル(非対称スパイラル旋回)

Text & Illustration: Bruce Goldsmith
Translated by: Yoshihiro Sato

これは別名リズミカル・スパイラルとしても知られる。

最近、私はフライト中、このアシメトリック・スパイラルをより頻繁に使い始めた。あまり見かけることのないマヌーバーで、スクールで教えられることも稀だが、使えば使うほど、多くの利点を発見する。

そもそもアシメトリック・スパイラルとは?

基本的には、スパイラル・ダイブとウイングオーバーを組み合わせたものだ。小さなウイングオーバーからスタートして、ブレークコードを左、右、左と引く代わりに、常に同じ側にステイするのだ。
これによって不均一なスパイラルのようなリズミカルなマヌーバーになるが、このマヌーバーは実際、スパイラルとウイングオーバーの両方を凌ぐ利点を持っている。

アシメトリック・スパイラルの利点

1) スパイラル・スタビリティの問題を軽減する。

スパイラルの危険は、グライダーが一定の下降スパイラル状態に嵌まった時、スパイラルにロックしてグライダー自身がそのスパイラルから抜け出せなくなることだ。これはグライダーが一定したスパイラルに入っているときにだけ起こる。

アシメトリック・スパイラルでは、グライダーは決して一定したスパイラル状態には入らず、絶えずスパイラルにダイブインとダイブアウトを繰り返す。自分の経験では、これによってスパイラル・スタビリティの問題は完全に解消する。

毎年、グライダーのスパイラル・スタビリティの問題で、パイロットが事故死している。もしパイロットがアシメトリック・スパイラルのテクニックを学習したら、スパイラル指導の安全性は飛躍的に改善されるはずだ。

2) スパイラル中のGフォース(重力加速度)の軽減

アシメトリック・スパイラルにおいては、大きなGフォースとゼロGフォースが交互にやってくる。このGフォースの変化によって、体感するGフォースはずっと簡単に耐えることができてコントロールできる。しかし、最大降下率は通常のスパイラルよりも小さい。

3) ウイングオーバーよりも安全性が高い

ウイングオーバーは、習得までの過程で高い危険を伴うテクニックである。ウイングオーバーでは、タイミングを誤るとグライダーが非常に簡単に大きくコラップスしてクラバットに入り、地上に近い高度では重大な事故を引き起こす。スクールの講習中に低い高度でウイングオーバーの練習中に死亡した知人がいる。ジョークでは済まない。

アシメトリック・スパイラルの素晴らしいところは、ウイングオーバーをする時と同じテクニックを習得できることだが、同じレベルの大きなコラップスやクラバットのリスクがない点にある。
パイロットがウイングオーバーを練習する前にアシメトリック・スパイラルをマスターしていれば、このような上級テクニックを教える時の安全性は劇的に向上するはずだ。

通常のスパイラルと、アシメトリック・スパイラルの、旋回軸の違い。

アシメトリック・スパイラルを上級パイロットスキルとトレーニングに使うことは、SIVでの事故を著しく軽減して、同時に新しい有用なパイロットスキルを発展させることができると信じている。

私自身、高度を下げるのに、従来のスパイラルの代わりにこのアシメトリック・スパイラルを使っているが、本当に楽しいテクニックだ。マヌーバー全体を通して安全とコントロール感を持てるが、何よりも本当に楽しいテクニックなのだ。

アシメトリック・スパイラルの方法

短い漸進的なブレークコード操作から始める。例えば、右側のブレークコードを3秒間引くとか。これはまたウイングオーバーを開始する典型的な方法でもある。

この引いたブレークコードをリリースすると、翼は前方にサージ(ダイブ)して、パイロットは翼の下にスイングする。
もしここで左側のブレークコードを引くと、ウイングオーバーに入る。もし右側のブレークコードを引けば、スパイラル・ダイブに入る。しかし、アシメトリック・スパイラルを行うには、両側のブレークコードを同時に引くのである。
これでグライダーはパイロットの後方に戻り、パイロットは前方にスイングする。スイングの方向は、パイロットの移動と同じ方向にスイングバックするように、直線でなければならない。

この次のサージのピークに達したら、両側のブレークコードを再び引くが、例えば、右側のブレークコードの引き代を左側よりも少し大きくして、アシメトリック・スパイラルの振幅を増す。

アシメトリック・スパイラルは、厳密に正しいタイミングでのブレークコントロールとウエイトシフトが要求されるため、ウイングオーバーよりも実施するのが難しいが、素晴らしい点は、もしタイミングを誤っても危険が少ないことだ。

とはいえ、アシメトリック・スパイラルにしてもマヌーバーであることは変わりない。実践する際は、少なくとも500m以上の対地高度が必要となる。

【参考動画:Asymmetric Spiral – Freedom SIV】

最後に、この記事について、アメリカのスクールからフィードバックが届いたので紹介しよう。

ハロー、ブルース。
その通りだよ! アシメトリック・スパイラルは2006年にデイル・コヴィントンが僕に教えてくれてからの自分の指針だよ。僕自身、2005年に友人を失った。ウイングオーバーの練習をしていて、地面にクラッシュしたんだ。それで僕のウイングオーバーの実践は10年後退りした。僕も一定したGフォースが好きではないので連続スパイラルは滅多にやらない。グライダーにも負荷がかかって良くないし、それに退屈だからね。

僕はマイナーリーグのSIVインストラクターだ。SIVをできる場所は、一番近くて2000マイル離れているし、僕の生徒やクロカン仲間たちはSIVをやらないからね…(誰かが現地でSIVを教えてやらなくてはならないのだが)。
それにほとんどの生徒にとって、アシメトリック・スパイラルはSIV導入コースの最終目標になっている。スパイラル・エネルギー・コントロールの究極のデモになるからね。おまけに安全で、楽しくて、もちろん役に立つ。
僕が生徒にウイングオーバーを教えるのは、その人がアシメトリック・スパイラルをうまく実演できてからだよ。ウイングオーバーはミスすると問題になる傾向があるし、習得するのが難しい。

情報をシェアしてくれて感謝するよ。他の人たちがどのように教えているのかを読むのは良いことだ。
僕がアシメトリック・スパイラルを教えるのは、生徒たちが徐々にスパイラルから抜け、サージに捕まっても素早く抜けることができることを実演できた後だ。
次に、スパイラル入力を逆にして、短い間を置いてから、スパイラルに突入する『無茶な高速抜け』のいくぶんハードなスパイラルをやらせる。もちろん指導はずっと微妙なニュアンスになるけど…。
だけど、もし生徒たちが余分のエネルギーでスタートした場合、彼らにとってアシメトリック・スパイラルのタイミングやエネルギー管理を習得するのがずっと簡単になることを発見した。一旦、燃えるエネルギーでスタートした後にアシメトリック・スパイラルができると、生徒たちはずっと困難なレベルフライトからのエネルギーの増強の仕方をより簡単に習得することができる。

これが、僕が教えている方法だ。君のやり方を次の夏に試してみるよ。ありがとう!

Calef Letourney
SIVインストラクター、USA